産経新聞 12月10日(金)7時57分配信

 ■安定財源なく、給付減は進まず

 基礎年金を受け取る年齢を、今の65歳から75歳や80歳にする案が出ている。荒唐無稽に見えるが、提唱する側には「このままでは、将来世代が負担しきれない」との危機感がある。足元では「100年安心」のため導入された年金抑制策が実現されず、来年度予算編成では安定財源がないまま、基礎年金の国庫負担割合の引き下げまで検討された。年金制度の行方は不透明感を増している。(佐藤好美)

 ◆平均寿命後をカバー

 今秋、東京都内で開かれた「年金の将来」(一橋大学主催)のフォーラムでは基礎年金の75歳支給案、さらには80歳支給案まで飛び出した。

 80歳支給案を主張したのは、東京大学の井堀利宏教授(経済学)。「ちょっと現実離れしているが」と前置きし、65歳から支給される基礎年金を80歳からにし、全額消費税で賄う案を解説した。

 井堀教授案では、20~60歳は強制積み立ての年金保険に入り、積み立てた年金を60~80歳で受け取る。80歳以降は全額税による月7万円弱の公的基礎年金を受け取る。

 井堀教授は「平均寿命の80歳までは生きることが予測できるから、自助努力が必要。積み立てなら掛けた分が戻ってくるから、逃れるインセンティブもない。逆に、寿命を超える“長生きリスク”は予測できないから、政府はそこだけ面倒を見る。80歳以降は人数も少ないから社会全体で支えられる」と言う。公的年金の役割を絞り、将来世代の負担を軽くする案だ。

 だが、問題は移行措置。高齢世代、現役、将来世代が“三方一両損”になるような年金減と負担増を考えるが、妙案はない。

 ◆デフレで年金実質増

 井堀教授はそもそも、子供や孫世代が親世代を支える現行の「賦課(ふか)方式」に否定的。

 しかも、現行制度には暗雲が漂う。「100年安心」を掲げて導入された仕組みがうまく機能しないのだ。

 6年前の制度改正では、少子化でも制度が維持できるよう、給付削減の仕組み(マクロ経済スライド)が導入された。

 しかし、この仕組みは賃金や物価の上昇が前提になるため、今まで一度も実現していない。一橋大学経済研究所の稲垣誠一教授は「デフレで年金は実質的に上がり、デフレが続けば年金支出は実質増加する。賃金が上がればよいが、長期的に財政バランスが取れなくなれば積立金は枯渇する」と言う。

 その稲垣教授が提唱するのは、75歳以上に全額税で月7万円弱の「新基礎年金」を一律に出す案。65~75歳には今と同水準の年金を保険料で支給する。民主党の「全額税方式による最低保障年金」に近いが、公費の対象を75歳以上に絞る分、財源も少なく済み、経過措置なしで低年金、低所得の高齢者に支給できる。

 稲垣教授は「払った人と払わない人の公平性の問題があるが、高齢者も現役世代も、納めた保険料以上の基礎年金額を75歳までに受け取るから、許容範囲と考える。75歳から後は一律の基礎年金にし、底上げする分は新基礎年金の所得制限など、高齢高所得層の負担を充てれば世代間不均衡も広がらない」とする。

 ◆親子勘定案も

 井堀教授はフォーラムで、80歳支給が実現できないときの「次善の策」として、子供や孫が自分の親の厚生年金を払う「親子勘定の賦課方式」にも触れた。

 「親子勘定にすれば、豊かな親は子供や孫から年金をもらわず、逆に生活を援助する自発的再分配が行われる。子供が多ければ年金が増えるから、少子化対策にもなる。教育投資をして子供をきちんと育てる誘導策にもなる。子供のない家庭は、子供にかける費用を私的な年金積み立てにすればよい」

 大胆な案に会場には笑いが広がり、井堀教授も「現実味がない。一つの思考実験」と笑う。だが、背景には、将来世代への過重な負担が放置されている強い不満がある。

 「高齢世代は数も多く、政治的圧力も強い。法律があっても、今後も年金抑制(マクロ経済スライド)は難しいだろう。今のような『若い世代は年金をもらえるけれど、払うより少ない』では、若者はお年寄りを大事にしようという気持ちも湧かない。制度を早く改正すべきだ」

 ■海外でも年齢引き上げ予定

 制度に漂う暗雲は、年金抑制が実現されないだけではない。来年度予算では、基礎年金の国庫負担割合(2分の1)を下げる案まで取り沙汰された。

 国庫負担割合は、6年前の制度改正で3分の1から2分の1へ引き上げが決まった。「現役世代の年金保険料を上げ続けるのは限界がある」とされたためだ。

 必要財源は、消費税を1%上げてやっと確保できる約2・5兆円。歴代政権は消費税を上げる腹づもりだったが先送りに。平成21、22年度は“埋蔵金”でしのぎ、2分の1を実現したが、それも今や枯渇した。財源がないまま、来年度予算編成で浮上したのは国庫負担割合を再び下げるという奇策。さらに、タコが足を食うように、年金特別会計の積立金を充てる案まで出た。仮に来年をしのいでも、再来年度も財源のあてはない。年金制度の持続可能性は怪しくなるばかりだ。

 海外では、米国、ドイツ、デンマーク、英国などで年金開始時期の67歳や68歳への引き上げが予定される。基礎年金の75歳支給案、80歳支給案は現実離れして見えるが、専門家の懸念は深い。

【用語解説】基礎年金

 年金の1階部分に当たる全国民共通の年金。会社員は2階部分に厚生年金が乗る。原則25年以上加入すると、65歳から受け取れる。40年加入で年金額は満額の月6.6万円。加入年数が少なければ減る。平成20年の平均受給額は月5.4万円で、基礎年金だけの人では月4.8万円。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101210-00000131-san-soci
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