東洋経済オンライン 7月13日(金)11時27分配信

 お笑いタレントの河本準一氏の話題に端を発した生活保護騒動。「受給者が働かずにパチンコをしている」「まじめに働く人が損をする欠陥制度だ」──。騒動の勃発後、報道が生活保護のバッシングともいえる状況になり、保護受給者への逆風が続いている。

生活保護費の半分は医療費が占める、生活保護費の内訳グラフ

 政府、与野党それぞれの生活保護制度の見直し論議も進んでいる。厚生労働省の特別部会は、今秋の「生活支援戦略」の最終取りまとめに向け、7月にも生活困窮者対策について本格的な審議を開始する見通し。片山さつき参議院議員や世耕弘成参議院議員らの河本氏への疑惑追及で、今回の騒動に火をつけた自民党も、今国会中に生活保護法改正案を議員立法で提出する予定だ。

 制度見直しの議論は始まったばかりだが、バッシングの高まりを受け、制度利用の厳格化の流れができつつある。

 そうした中、弁護士らで構成する生活保護問題対策全国会議は、6月25日、民主、自民、公明の3党が合意した社会保障・税一体改革の内容を受け、「生活保護制度を利用せざるをえない社会構造に目を向けていない」として、抗議活動を実施した(上写真)。しかし、デモの参加者は少なく、見直し慎重派の声の広がりは限定的だ。

 「このままでは生活保護が本当に必要な人にとって制度がますます遠い存在になる」。NPO自立生活サポートセンターもやいの稲葉剛代表理事はそう懸念する。

■狙いは保護費抑制と信頼回復

 生活保護は憲法上の「最低限度の生活」を保障するため、生活困窮者を保護する仕組み。受給には金銭などの資産や生計の手段が十分でないことが前提だ。

 生活保護制度の見直しの議論が起こったのは、増加傾向にある生活保護給付費の抑制と、制度の信頼回復という大きな二つの理由がある。

 高度成長期以降、減少傾向をたどった生活保護受給者だが、1995年度を底に上昇に転じ、2011年度は過去最高を記録。景気低迷や国民年金に依存する高齢者の増加から、今後も受給者増加が見込まれる。つれて財政負担も拡大の一途だ。

 国民からの信頼回復も待ったなしだ。厚労省によると、全国の不正受給件数は10年度に約2万5000件と5年前から倍増。総額も約1・8倍の128億7000万円と過去最高を記録。暴力団や外国人の組織的な不正受給や、保護費の貧困ビジネスへの流出などが指摘され、国民の不信は増幅している。

 政府は保護費抑制に向け、勤労所得の一部を積み立て、保護脱却後に還付する「就労収入積立制度」などの自立支援策の導入を検討。また資産調査を強化し、収入の未申告を防ぐなど信頼回復策も講じる。

 これに対し、「自助」を前面に掲げ、受給要件をより厳格にする方向へと攻勢をかけるのが、自民党だ。

 同党案は政府案とは異なり、給付水準について「10%削減」という具体的数値を掲げるほか、現金給付ではなく、生活用品や住居の現物給付を主張。また、保護期間中の勤労所得を管理し、保護脱却時の自立資金に充てる「凍結貯蓄」を提案。これは政府案の就労収入積立制度より強制色が強い。自民党の問題提起を受け、親族による扶養義務の強化は政府案の検討事項に盛り込まれた。

 「給付水準が高いからモラルハザードが起こり、保護費の拡大につながっている」。同党のプロジェクトチーム座長を務める世耕議員はそう解説する。同議員の元には、生活保護費の水準の高さについて、有権者から“不公平感”の訴えが相次いでいるという。

 実際、東京の生活保護費は標準3人世帯で住宅扶助も含め1カ月に約24万円。母子家庭では約26万円だ。他方、最低賃金で1日8時間、20日間働いても13万円強にしかならない。国民年金も満額で月約6万5000円。またデフレ下で給与所得者の平均給与が過去12年間で約15%減ったのに対し、保護費はほぼ同水準を維持している。これでは確かに不公平感は存在するだろう。

 こうした批判に対し、制度見直しの慎重派は、前提となる認識の「ズレ」があると主張する。長く都内の福祉事務所に勤めた帝京平成大学の池谷秀登教授は、「最低賃金や国民年金が(最低限の生活を保障するには)低すぎることがむしろ問題で、別の議論が必要」と指摘する。

 不公平感については、景気の影響が大きいとの見方もある。別の福祉事務所のOBは、「景気がいいときは国も自治体もおカネがあり、保護受給者は少ない。しかし景気が悪くなるとその逆で、世の中からバッシングの対象になるという状況が繰り返されてきた」と振り返る。

 同様に「モラルハザード」にも認識の「ズレ」がある。

 自民党は保護費拡大の背景には、景気低迷や高齢化だけでなく、モラルの問題があると強調。特に保護世帯のうち増加が目立つ、64歳以下の男性を含む「その他の世帯」に着目し、稼働年齢層の働く意欲の低下を指摘する。厚労省がリーマンショック後の09年12月、生活保護の申請があった場合に「速やかな保護決定」をするよう自治体に通知したことなどで、福祉事務所の認定基準が必要以上に緩和された結果、モラルハザードを助長していると主張する。

 一方で、稼働年齢層のモラルハザードの広がりが、保護費増加に影響したかについては、厚労省は「信頼回復という面から対策は必要だが、保護費増加とは基本的には別問題」との立場。慎重派も「(保護費増加の原因は)あくまで景気悪化と高齢化」と主張する。

 64歳以下の「その他の世帯」は稼働年齢層とされているが、約7割の世帯主は雇用状況が厳しい50歳以上とされる。単純にモラルハザードと片付けるのはあまりに乱暴だ。

 もちろん、現行制度に見直す必要がないわけではない。生活保護費の約半分を占める医療費について、自己負担がないことが被保護者のモラルハザードにつながっているとの指摘は与野党問わず根強い。実際、医療費負担の抑制のために、政府、自民党ともに電子レセプトの活用など対策を打ち出している。

 不幸なのは、統計データなど確認する手立てが存在せず、見直し推進派と慎重派の認識ギャップが埋まりにくい点にある。その間にも、自治体職員の親族による生活保護受給問題などが報じられ、現象としては部分的であっても、現行制度の不備ばかりがクローズアップされる。

■62年ぶり改正を生かせるか

 生活保護制度の維持と、受給者の生活のために、何より大切なのは自立支援策の拡充だ。しかし、過度な自立への要請は、「最後の安全網」としての安心感を奪うリスクとも隣り合わせともいえる。

 東京都在住の佐藤康之さん(仮名・49)は、福祉関連の仕事に就いていたが、激務のため体調を崩し退職。2年前から生活保護を受給している。佐藤さんは「親族から生活保護受給を『恥ずかしいこと』と言われたことが忘れられない。扶養義務の強化や現物給付が導入されれば、早く抜け出したいと最初は無理にでも頑張るだろう。でも今も職探しを続けるが、この年齢で安定的な仕事は見つからない。日雇いは体力的に続ける自信がなく、無理に自立を促されるのは不安もある」と話す。

 自民党案では、稼働年齢層の保護期間への「有期制」導入、現物給付、親族による扶養義務の強化など、就労インセンティブ強化や不公平感の是正を目的とする措置が講じられている。「本来必要な人が、保護から追い出されてしまう」(もやいの稲葉氏)という懸念も広がる。

 厚労省の国民生活基礎調査(07年)からの推計によると、最低生活費よりも収入が少ないにもかかわらず、保護を受けていない世帯は約229万世帯に上る可能性がある。慎重派の人々には、生活保護に対して世間全般にスティグマ(心理的嫌悪感)が根強く存在し、「本来必要でも受給に二の足を踏んでいる人が多い」という意識が強い。制度改正で、必要な人がこれまで以上に保護を受けにくくなることを危惧する。

 世耕議員は、反対派との意見相違の根底について、「フルスペックの人権を認めるかどうか」と説明する。生活保護が憲法上の「最低限度の生活」の権利を保障するものである以上、その権利の範囲をどう考えるかは、国民の間でも議論が必要だ。

 現行制度は通達行政が中心で、1950年の制定以降、法律は一度も抜本改正されていない。今回の見直しは来年度の法律改正も視野に入っている。景気低迷、高齢化が続く状況下で、「最後の安全網」をどう再構築するか。拙速な制度改正だけは避けなければいけない。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120713-00000001-toyo-bus_all
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