ダイヤモンド・オンライン 10月15日(水)8時0分配信

● 資産運用業界にとっては大切な商材 「老後不安」にどう備えるべきか? 

 老後の生活費に対する不安と、将来のインフレに対する不安の2つの不安は、資産運用業界(販売金融機関も含む)にとっては、有力な「商材」の双璧だ。特に、老後不安については、定年退職までに十分な資産がないと「老後難民」になる、などと脅かされると、心配がどんどん膨らんで来る。普通の人には過剰な想像力があるので、不安がゼロになることはほとんどない。

 もともと利幅の大きな怪しい商品は、先に不安を提示しておいてから、「安心な対策! 」としてセールするのが、マーケティングの定番だ。顧客側には迷惑な話だが、こうして売るのがむしろ普通なのだ。

 健康食品、生命保険(ガン保険などの医療保険を含む)、霊感の壺などは、粗利が大きく、筆者にとって払う金銭ほどの価値がないと感じる商品群だが、見事にこのパターンに当てはまる。いずれも、別のものにお金を使った方が消費者の目的により適うように思えるのだが、多くのケースでそうはさせずに顧客を仕留めるところが、プロの怖さだ(甘く見てはいけない! )。

 投資信託や個人年金保険のような個人向けの運用商品は、生命保険や霊感の壺と較べると、顧客の支出に対する比率で見た手数料が一ケタ小さいように思うが、しばしば顧客が支出する金額が大きい。また顧客は、「お金を増やすために」という明確な目的意識でお金を投じるのに、金銭的に明らかに損な商品を買う。「あこぎ」の度合いにあって、両者に大差はないかもしれない。

 普通の生活者は「老後不安」に対して、どう備えたらいいのだろうか。

 資産運用へのアドバイスを本業とする筆者にとっては残念な事実だが、老後の生活の不安のような「人生の大問題」は、今持っているお金の運用だけで解決できるとは考えない方がいい。
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● 老後の生活費の問題は 主として支出配分の問題

 稼ぎがゼロの前提で、老後の生活を現役時代と同様の水準で確保するためには、年金をあてにしないとすると、今後の運用益を考えても少なくとも年間支出額の20年分くらいの蓄えが必要だろうが、これは通常の人の現役時代の運用額では、よほどの高利回りがないと無理だ。

 首尾良く、そこそこの利回りで必要とおぼしき資産額をつくることができた人がいたとしても、それは運用が上手かったからというよりは、長期にわたって相当の額を貯蓄・投資したことが立派だったからだろう。あるいは、運用資産額が大きくなる運用の終わりに近い時期に、幸運な利回りに当たったかだが、もちろん幸運は予定できない。

 老後の生活費の問題は、主として異時点間の支出配分の問題なのだ。

 仮に、40年同じ可処分所得を得て、簡単化のために金利も物価上昇率もゼロだとすると、可処分所得の40%を貯蓄した人は、貯蓄の取り崩しによって現役時代の支出(可処分所得の60%のはずだ)を26.7年続けることができる。65歳から26.7年と考えると、91.7歳になっており、女性の平均寿命をも大きく上回る。

 可処分所得の30%を貯蓄したケースを考えると、現役時代の支出を17.1年続けることができる。現役時代の8割の支出でよければ、21.4年だ。現実には、頼りないとはいえ公的年金などもあり、65歳以降もある程度は働けることを思うと、可処分所得の25%も貯蓄すれば相当に「安全圏」だろうし、資産運用の利回りもそれなりにあっておかしくない。

 老後の生活費が不安な人は、計画的な貯蓄を徹底的に考えるべきだ。運用商品や金融マンのアドバイスなどに頼ってはいけない。運用の結果は不確かであり、金融屋に儲けさせることだけが確かになる。


● アリか、キリギリスか?  老後設計の「割り切り方」

 さて、読者の年齢は多様だろうが、これまでに可処分所得の大半を使ってしまっていると、先のような計算はまるで成り立たない。実は、筆者(アリよりもキリギリスのタイプだ! )もそうなのだが、現役時代に可処分所得の25%程度の貯蓄や投資を継続してこなかった人は、どうすればいいのか。

 なお、可処分所得の25%~30%というと、住宅ローンの返済でこれくらいの額を払い続けた方が少なからずいらっしゃるだろうが、住宅の価値が減価している(加えて、今後もさらに減価する)ことを考えると、ローンの返済額をそのまま貯蓄だと考えることは不適当だ。不動産の価値は、あくまでも現実的に売却が可能な時価で考えるべきであり、自宅用であっても例外ではない。

 我々にとって考えやすいのは、リタイア時点ではなく現状だ。まず、現状の自分の純資産額(金融資産と不動産などの実物資産の換金可能な時価評価額から、債務額を差し引いたもの)を、ざっくりと計算してみよう。

 次に、たとえばリタイア後から25年生きるとして(65歳でリタイアなら90歳まで)300ヵ月となるが、自分の純資産額を300で割り算してみよう。ちなみに、95歳まで考える人は360で、100歳まで考える人は420で割り算するといい(筆者は360で考えている)。

 こうして求められた金額が、リタイア後に毎月取り崩していい金額だ。この金額を、独自の企業年金のない方は日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」に載っている老齢年金の見込額の月額、企業年金がある方は会社の年金担当部署で教えてくれる年金の見込額に加算した額が、大まかに「リタイア後に働かなくても使える額」となる。

 ただし、公的年金の受取額は実質価値で年率1%程度ずつ減価していく可能性が大きいことを覚悟しておくべきだ。
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 「これでは、少ないな」と思われた読者が少なくないかもしれないが(筆者もそうだ)、この場合に考えるべきことは、(1)リタイアまでの貯蓄(収入マイナス支出)の計画、(2)リタイア時期の延長あるいはリタイア後の稼ぎの計画、(3)足りないと思う額であっても「リタイア後に働かなくても使える額」による生活のシミュレーション、の3つだ。

● 生活レベルを変えれば十分暮らせる 「老後」を怖がり過ぎるのも考えもの

 それぞれに補足しよう。

 具体的な老後の生活費の水準が見えて来ると、貯蓄に対する意識が変わる人は少なくないはずだ。目的を持って計画的に「天引き」で行う貯蓄と、漫然と余ったお金を貯めるのとでは、行動経済学的に見ても効果が違うはずだ。

 多くの人にとって最も現実的な「老後対策」は、働く期間を延ばすことだろう(筆者は主にこの方向を考えている)。働き方は、若い頃と変わるとしても、健康でさえあれば、相当程度可能なはずだ。

 ただし、たとえば会社を退職した後に働く体制をつくるためには、周到な準備とそれなりの準備期間が必要なはずだ。

 現役世代の自分から見て「足りない」と思う額でも、発展途上国の賃金を考えると十分豊かに暮らせるはずだ。また、格差が広がるとはいえ、多くの日本人が(程度の差はあれ)自分程度の可処分所得になることを考えると、消費財やサービスにしても、低所得者向けのマーケットがきっとできるはずだ。

 たとえば、今、百貨店の伊勢丹や高島屋で衣料品などをよく買うという方は、名前は挙げないが大型のスーパーマーケットに行って、そこで売っている商品の値札を見ると驚くだろう。大袈裟に言うなら「これは、デフレの殿堂か」と感動するはずだ。

 また、さすがに衣料品の全ては100円では無理だが、100円ショップに行くと「十分使えるものが、この値段なのか」と再び驚くことになるだろう。

 また、日本には空き家が多く、今後人口が確実に減る。贅沢を言わなければ、住むところがないという事態は起こりにくいはずだ。

 生活レベルが変わることはあるとしても、「暮らせない」という心配は案外小さいのではないか。「老後」を事前に怖がりすぎるのは考えものだと思う。

● 楽観と悲観のほどよい中間は?  老後設計と運用リスクの関係

 さて、先の300、360、あるいは420で持っている資産の価値を割り算する考え方で便利なのは、資産運用の損得を簡単にリタイア後の生活費と結びつけることができる点だ。

 たとえば、純資産額を300で割ることにしている人は、300万円儲けると将来の生活費が月1万円増え、逆に300万円損すると将来の生活費が1万円減ると考えると、運用のリスクをリアルに想定することができる。

 たとえば、300万円が許容できる損失の限界だと思う人であれば、リスク資産を内外の株式インデックスファンド(国内株と先進国株を50%ずつ)のような内容で運用する場合、リスク資産に投資できる上限は1000万円程度だ(1年間に想定される大きなロスは3割程度なので、ここから逆算すると計算できる)。

 世間には、運用での損失を非常に大きく致命的なものに感じる人が多いように見受けるが、このように計算してみると、許容範囲を拡げられる人が案外多いのではないか。

 取っても大丈夫だと納得のできるリスクを取りながら、非現実的でない程度に預金などよりも高いリターンの獲得を目指す。老後に備える「資産運用」の立ち位置は、このくらいが丁度良い。

 なお、運用でリスクを取るとどのくらいリターンが増えるのかについては、残念ながら定説はないが、リスク資産運用として内外の株式で運用するケースを考えると、預金などの利回りにせいぜい5%を足したくらいを「長い目で見て平均的に達成できそうな利回り」と考える程度が、楽観と悲観のほどよい中間ではないかと筆者は考えている。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141015-00060512-diamond-bus_all
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