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「年金運用で巨額評価損」という不都合な真実
東洋経済オンライン 4月10日(日)6時0分配信

 「これでは隠ぺいではないか!」――。4月6日夕方に国会内で開かれた「年金損失『5兆円』追及チーム」の会合では、民進党議員の怒りの声が飛びかっていた。

 理由は年金積立金管理運用独立行政法人(以下GPIF)が2015年度の運用概況書の公表日を7月29日にしたことについて、彼らを納得させる説明ができなかったからだ。なぜ公表日にこだわるのかといえば、7月の参議院選挙が密接に絡んでいるから。GPIFの運用環境は極めて悪く巨額の評価損が出ている可能性が高い。そのため、公表日を選挙後とすることで自公政権が選挙への悪影響を避けようとしている疑いが出ているのである。

 以下、その詳細を見ていこう。

■ 「7月末まで」でいいのか? 

 「(平成)27年度計画」によれば、「各年度の管理及び運用実績の状況については7月末までに」情報を公開するというGPIFに対し、「それでは遅い」というのが民進党議員たちの主張だ。

 そもそも2007年4月にGPIFが創設されて以来、7月末に運用概況書が公表されたのは初年度だけ(7月31日)。それ以降は6月下旬か7月上旬に公表されてきた。そのため、本来は前倒しが可能なはずだ。

 一方で今年改選を迎える議員の任期は7月25日まで。よって投開票日は7月10日か7月17日が有力となっている。

 「今年は3年に1度、国民が政治に対して行動を起こせる年だ。だからこそ、投開票日までに情報を国民に公開してほしい」――。「年金損失『5兆円』追及チーム」のメンバーである井坂信彦衆院議員は、年金の数字を次期参院選での国民の判断材料にすべきだと主張した。

 井坂氏は4月1日の衆院厚生労働委員会で、自ら試算した運用損益を公表したが、この試算によれば現行ポートフォリオ(現行比率)による2015年度のGPIF運用損益はマイナス4.9兆円にも上る。しかし旧ポートフォリオ(旧比率)によれば、損益はゼロになる。ちなみに旧ポートフォリオとは、2014年10月31日以前の資産構成を指す。
 
 現行比率
 評価損益(兆円)
 旧比率
 評価損益(兆円)
 国内債券
 38%
 2.6
 60%
 4.1
 国内株式
 23%
 -3.8
 12%
 -2.0
 外国債券
 14%
 -0.6
 11%
 -0.5
 外国株式
 23%
 -3.2
 12%
 -1.6
 合計
 100%
 -4.9
 100%
 0

 もともと日本の年金は、安全性の高い国内債券を中心として運用されていた。2008年度から2014年度までの「第2期中期計画」では、基本ポートフォリオの資産構成は国内債券67%、国内株式11%、外国債券8%、外国株式9%、短期資産5%と決定されていた。ところが「第2期中期計画」の途中にも拘わらず、2014年10月31日にGPIF運営委員会は同年6月の検証結果と厚生労働大臣からの要請を受け、次期ポートフォリオを前倒しで検討し、2014年11月以降は国内債券35%(±10%)、国内株式25%(±9%)、外国債券15%(±4%)、外国株式25%(±8%)に変更している。

 ローリスク・ローリターンの国内債券の比率を減らし、ハイリスクだがハイリターンが期待できる国内外株式や外国債券の比率を増やすことで、運用益を増やそうと試みだ。

■ 株価引き上げに貢献

 その目的は2つあった。少子高齢化社会により負担増となる年金の財源を確保すること、そして巨額の年金資金を日本の株式市場に流して株価を引き上げることだった。

 幸いにして世界的に株価が上昇したため、2014年度の年金積立金は137兆4769億円、収益額は15兆2922億円で、収益率は12.27%にも上っている。

 だが今年に入り、世界同時株安が日本を襲った。中国では1月4日に、導入されたばかりのサーキットブレーカーが発動した。日本も大発会から5日連続して株価が下落した。これは1949年に東京証券取引所が開設されて以来、初めてのことだった。

 そして3月29日から4月6日まで、安倍政権始まって以来の7日連続の株価下落を記録し、とうとう1万6000円台を割るに至った。

 そもそも年金運用が景気によって影響を受けることは、過去の運用実績を見ても明らかだ。

 サブプライムローン問題が起こった2007年度には収益額は-5.5兆円で、収益率も4.59%減じている。これに続いてリーマンショックが起こった2008年度には収益額は-9.3兆円で、収益率は-7.57%までに悪化した。当時は株式の運用割合が小さかったが、それでもこれだけの影響を受けているわけだ。株式の運用割合が大きくなれば、当然その影響も甚大になる。

■ 運用損に対する塩崎厚労相の発言は? 

 実際にどのような運用損が出ているのかについて、政府は正面から答えようとはしなかった。たとえば4月7日の衆議院環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会での民進党の玉木雄一郎衆院議員の質問に対し、塩崎恭久厚生労働大臣は以下のように述べるにとどまった。

 「今年はGPIFが発足して10年目に当たる。そこでこの10年間の運営の状況をきちんと説明し、ディスクロージャーを高めていこう、国民に透明性を高めていこうということで、保有している銘柄などを分析して開示する準備をしている。その発表は年度で行うということが法律で定められている。またこれにより判明する数字は評価損の数字で、そのまま赤字になっているわけではない。年金で大事なことは、長期視点で賄えきれるのかどうかだ。経済情勢が変わったのだから、ポートフォリオを変えたのは世界の常識。短期的な変化に過度に反映すべきではない」

 安倍晋三首相も「安倍政権発足以降、年金積立金の増加は37.8兆円にものぼる。ポートフォリオ見直し後でも、8.9兆円もある。民主党政権時よりはるかに、はるかに、はるかに上がっている」と、運用の健全性を強弁しただけだった。

 年度
 公表日
 選挙日程
 2001
 2002/7/30
 ※旧大蔵省資金運用部から厚生労働省の自主運用へ
 2002
 2003/7/23
 衆院選10月28日公示・11月9日投開票
 2003
 2004/7/22
 参院選6月24日公示・7月11日投開票
 2004
 2005/7/14
 衆院選8月30日公示・9月11日投開票
 2005
 2006/7/20
 
 2006
 2007/7/31
 参院選7月12日公示・29日投開票 ※2007年4月にGPIF設立
 2007
 2008/7/4
 ※サブプライムローン問題
 2008
 2009/7/1
 衆院選8月18日公示・30日投開票 ※リーマンショック
 2009
 2010/6/30
 参院選6月24日公示・7月11日投開票
 2010
 2011/7/6
 
 2011
 2012/7/6
 衆院選12月4日公示・16日投開票
 2012
 2013/7/2
 参院選7月4日公示・21日投開票
 2013
 2014/7/4
 衆院選12月2日公示・14日投開票
 2014
 2015/7/10
 
 2015
 2016/7/29
 7月25日に参院任期満了

■ 国民の負担は、さらに増えるのか

 しかし、国民が関心を寄せるのは、大臣たちの強気ぶりではない。いまどのくらいの年金が積み立てられているかにとどまらず、運用によってきちんと利益が出ているのか、そしてそれが果たして将来にわたって続くのかという点だ。

 実際に、国民の負担は大きくなる一方なのである。たとえば2015年度には月額1万5590円だった国民年金保険料は、2016年度には月額1万6260円に増加し、負担は国民の生活にずっしりとのしかかる。さらにその先に、消費税増税も控えている。

 これから、さらに負担が増えていくことは間違いない。年金の運用状況という、きわめて重要な数字を知らされないまま7月の参院選を迎えることになるのだろうか。
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2016.04.16 Sat l 年金 l top ▲
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