東洋経済オンライン 4月23日(土)10時0分配信

 「信託銀行は受託者責任義務違反を問われてもやむなしだと思う」

 ある大手年金基金の運用執行理事は、強い口調で信託銀行への批判を繰り返した。

 発端は3月28日。その年金基金に、ある大手信託銀行から通知が届いた。タイトルは「日本銀行のマイナス金利政策導入に伴う信託事務費用のご負担について」。

 要するに、日銀がマイナス金利政策を導入したために、信託銀行に追加的な費用が発生。ついては、その費用を年金基金のほうで負担してほしい、という通知だ。

■ 費用負担なら年金受給者から訴訟? 

 通知の文面やタイミングに若干の違いはあっても、信託大手4行(三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、りそな銀行)はいずれも、同様の対応を年金基金に求めている。

 冒頭の年金理事はこの通知に対して怒っているのだ。「どうして年金基金が費用を負担しなければならないのか。それを負担してしまったら年金受給者からの損害賠償責任訴訟が起きかねない」。

 信託銀行の言い分はこうだ。年金は通常、株式や債券などで運用されている。しかし、年金保険料は現金で入ってくる。支給も現金で行う。株や債券に投資する直前の待機資金も現金。つまり、ある程度の現金は、つねに余資として持っている。

 それらを今までは短期金融市場で運用していた。コールローンやCP(コマーシャルペーパー)などだ。しかし、マイナス金利政策導入で金利がゼロ近辺に沈み、コールローンやCPの資金の取り手が急減。短期市場での運用が極めて困難になった。

 そのため、年金信託の余資の大部分は、信託銀行の銀行勘定を通じて、日銀当座預金に滞留することとなった。それらは日銀のマイナス0.1%金利の対象で、費用が発生する。この費用を年金基金に負担してもらおうというのが信託銀行の考えである。

 負担額は信託銀行によって異なる。余資の残高に一定の比率を掛けたものという考え方は同じだが、比率が各行で違う。ある大手信託は0.06%。日銀でマイナス金利が適用となる当座預金の2月16日~3月15日の平均残高を基に算出した。この数値は毎月見直すという。0.04%としている信託銀行もある。

 実際にどの程度の額を負担するのか。ある大手信託銀行の試算では、年金信託のうち余資になっているのは4%前後。運用資産100億円の年金基金なら4億円程度で、それに0.06%を掛けると24万円。つまり、資産100億円の中堅年金基金の年間負担額は、24万円程度。運用利回りで言えば、0.0024%低下させるようなものだ。

■ 「負担はやむをえない」とする声も

 年金信託はあくまでも実績配当型の金融商品。運用利回りが上昇すればその成果を年金基金が受け取れる一方、利回りが低下したら基金の取り分は減少する。今回のマイナス金利政策の影響も運用実績の低下であり、その額も株価下落による影響に比べれば小さい。「年金基金に説明すればご理解いただけると思っていたし、実際、8~9割の顧客には理解してもらっている」(大手信託銀行)。

 確かに年金基金の中からは「仕方がないのではないか」という声も聞こえてくる。日銀がマイナス金利政策を取るという経済情勢の変化があり、それが運用成績に反映されるのはやむをえない、と。

 しかし冒頭の年金基金運用担当者は、「金額の多寡ではない。われわれが運用しているのは、年金受給者のためのもの。損をするとわかっている運用手法におカネを入れると、受託者責任を果たしていない、と年金受給者から言われかねない」と憤る。

 さらに、「日銀がマイナス金利政策導入を発表してから2カ月。その間に信託銀行は短期資産を日銀当座預金に置かなくても済むようなスキームを作れなかったのか」「0.0024%の運用利回り低下を補えるように、信託銀行内の事務などを効率化することはできないのか」といった指摘も、年金基金の運用担当者からは挙がっている。

 年金基金が費用負担にここまで抵抗するのは、直近の運用悪化も見逃せない。日銀のマイナス金利政策導入後、年金運用の主役である国債の利回りは急低下した。10年債は0.2%程度からマイナスに沈み、30年債も1.2%前後から0.5%割れまで低下した。

■ 運用成績悪化で将来は年金受け取り額見直しも

 国債利回りが低下すると国債価格は上昇するので、年金基金の3月末の国債の評価損益は改善したとみられる。だが、新規に投資する国債の利回りが急低下しているため、今後の利息収入は減る。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井純チーフ債券ストラテジストは、現在0.3%程度の20年債利回りが2018年度中にかけて0.15%程度、現在0.4%程度の30年債利回りが0.25%台まで低下することもあると予測する。超低水準の利回りが続けば年金基金の運用を確実にむしばむことになる。

 さらに、株価(TOPIX)は年初から1割超下落し、為替も年初に比べて1割近く円高ドル安が進んだ。国内株式、外国株式の3月末の評価損益は、15年末よりも悪化した可能性が高い。

 このように運用成績が低下し、決算直前で頭を悩ませている3月下旬、信託銀行から費用負担の通知が届いた。それは年金基金のいらだちを一層強めることとなった。

 この通知は4月18日から年金基金が費用を負担するよう伝えている。年金基金の費用増や運用成績の悪化で、年金受給額がすぐに減るわけではない。だが、費用負担がさらに増え長期化すれば、受給額見直しにつながりかねない。個人も目が離せない。
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2016.04.29 Fri l 年金 l top ▲