東洋経済オンライン 6月15日(水)11時0分配信

 「年金これだけしかもらえないの? 今まで欠かさず納めてきたのに?」

 老齢年金の受給手続に年金事務所を訪れたAさん(65)は思わず声を上げた。Aさんは同い年の妻(65)と東京都内で2人暮らし。65歳の誕生日を間近に控え、大学卒業以来40年以上勤めた会社を定年退職した。定年後は夫婦で旅行へ行ったり、孫と遊んだりして過ごすのを楽しみにしていたという。

 Aさんに提示された年金見込み額は月額約18万円。65歳以降は年金から介護保険や税金が天引きされるので、実際の振込額は月額15万~16万円程度になるのではないかとのこと。結婚以来専業主婦であった妻の年金と合わせて「月30万円くらいあれば十分暮らせるね」と夫婦で話していたのが目論見を大きく下回った。

 「結局、国は65歳を過ぎても働け……と言っているのか?」。年金事務所を訪れた1週間後、Aさんは再就職先を探しにハローワークを訪れた。「いろいろ調べてみたけれど、65歳を過ぎるといい求人はないね」と寂しそうに笑った。

■ 窓口相談の約7割は老後の年金に関する不安

 私は昨年まで日本年金機構の職員だった。年金事務所に勤め、主として年金給付に関する業務に携わってきた。私の所感であるが、窓口相談の約7割は老後の年金に関する不安が占めている。特に、Aさんのように定年退職前後の方が年金だけで暮らせるのか不安を感じて相談に来るケースが多い。

 自分の年金額を知って必ずといっていいほど出てくる言葉は「もう少し早く知っていれば老後の資金準備ができたのに」である。退職直前になって年金だけでは満足に暮らせないことに気がついても、そこから老後の資金を準備することは不可能に近い。

 だからこそ、早い段階から自分が将来受け取れる年金を知って老後の準備を始めることが重要になる。やり方は年金の不足分を補うものであれば人それぞれあってよい。では、いつから老後の準備を始めればよいのか。私は40歳が節目だと考えている。

■ 四十にして惑わずというが

 なぜ40歳なのか。東洋経済オンラインの主要読者の年齢層でもあるが、現在の日本の平均寿命は80~85歳。長めに見積もって90歳まで生きると仮定すると、65歳で退職し年金をもらい始めてから90歳で亡くなるまで25年ある。一方、40歳から65歳までも同じく25年。すなわち、40歳からスタートすれば年金をもらえる年数と同じだけの準備期間を設けることができるのである。

 私事ではあるが、私も現在40歳。同世代の友人や知人は子育てであったり住宅ローンであったりと今まさにお金が必要で、自分の老後まで考えが及んでいない。私は事情を分かった上で少しずつでも準備を始めることを彼らに助言している。

 実際に40歳の人はどれぐらいの年金をもらえるのか。試算してみよう。じつは年金額の試算は簡単だ。おおざっぱに言って、20歳から60歳までの間で年金保険料を納めた月数に約1600円を掛けた金額が基礎年金額、サラリーマンが就職から退職までの年収の合計に約0.5%を掛けた金額が厚生年金額である。

 私の友人3人を例に将来年金をいくらもらえるか考えてみたい。断っておくが、年金額は現在の水準であり、将来はさらに下がる可能性がある。

 私の10年来の友人であるBさん(40)は大手メーカーに勤めるエンジニアだ。都内にある国立大学の大学院を修了し、現在は商品開発において一線で活躍しながら後進の指導にもあたっている。一方でプライベートでは数年前に結婚した妻との間に2人の子供をもうけ、子煩悩なパパという一面を持つ。

 そんなBさんも老後に不安を感じるようになった。相談を受け、私はBさんが将来もらえる年金額を試算した。現在のBさんの現在の年収は額面で約800万円。毎年誕生月に届いている「ねんきん定期便」に記載のある、これまでの実績に応じた老齢年金額を聞いてみたところ、老齢基礎年金は年間約38万円、老齢厚生年金は年間約50万円だった。

 65歳まで現在の年収が続いたと仮定すると、試算の結果、65歳からの年金見込み額は現在の水準で年額210万~220万円となった。月額にすると約17万~18万円。大手企業で役職に就く人物であっても年金額は月20万円に及ばないのだ。

 じつはBさんは将来の退職金をあてにしてつい最近マイホームを購入した。退職金を住宅ローン返済に充てたら老後の生活費が足りなくなる、そう気付いたBさんは退職までに住宅ローンを繰り上げ返済して退職金を老後の資金とすることにした。「今のうちに気付いてよかった、子育てもあるし大変だけど今のうちにお金を大事にするよ」とBさんから感謝のお言葉をいただいた。

 電力系の会社に勤めるCさん(35)は、管理部門で働くサラリーマンだ。高校卒業後、現場で働いていたが、真面目な仕事ぶりが評価を受けて現在の部署へ抜擢された。現在は現場を統括する部署で資材調達の任務に当たっている。プライベートでは、会社に勤めながら大学に通い、学士号を取得するなど向上心にあふれた人物である。

 そんなCさんが年金の相談に来たのは、誕生月に封書の定期便が届いたのがきっかけである。じつは35歳、45歳、59歳は節目の年齢と呼ばれ、年金加入期間におけるすべての記録が封書で送られてくる。どうして今年はハガキの定期便ではないの? と質問を受けたため、説明をするついでにCさんの将来の年金を試算してみた。

 現在のCさんの現在の年収は額面で約600万円。毎年誕生月に届いている「ねんきん定期便」に記載のある、これまでの実績に応じた老齢年金額を聞いたところ、老齢基礎年金は年間約29万円、老齢厚生年金は年間約41万円だった。

 65歳まで現在の年収が続いたと仮定すると、試算の結果、Cさんの65歳からの年金見込み額は現在の水準で年額200万~210万円となった。月額にすると約16万~17万円である。実はCさんの勤務先には充実した企業年金があるので、老齢年金と合算するとそれなりの金額になる。しかもCさんは若くから働いていることもあって今あるお金で生きていける仕組みを自然に身に着けている人でもある。年金額を聞いて「病気さえしなければ生活の心配ないな」と胸をなでおろしていた。

 現在個人事業主であるDさん(66)は、高校を卒業して定年退職まで大手自動車メーカーに勤めていた。現在は老齢年金年額約180万円を受給しながら、売れっ子セミナー講師兼コンサルタントとして全国を飛び回っている。じつはDさんは40代後半にコンサルタント系の国家資格を取得し、以降20年以上にわたり、休日を利用して地道に活動していた。早い段階から週末起業をし、年金だけに頼らない収入源を準備してきたので、老後の充実した生活へすんなりとつなげることができた。

■ 年金を納める現役世代の減少で

 日本の年金制度は「仕送り型」だ。正式には「賦課方式」と呼んでいる。すなわち、現役世代が納める年金保険料を国が年金として高齢者世代へ支給することで成り立つ仕組みである。

 Aさんの父親ぐらいまでは現役世代がたくさんいたので、当時のお年寄りは十分な年金をもらうことができた。ところが、現在は少子高齢化の影響で現役世代が減っているため、Aさんのようなこれからのお年寄りは年金だけで生活が立ち行かなくなってきている。

 私たちが65歳になる頃にはどうなるのか? じつは状況は今よりさらに厳しい。国は少子高齢化を見越して2045年前後までに年金の給付水準を現在より約2割下げる方向で調整に入っている。月18万円のAさんの年金が30年後には約15万円程度まで下がる可能性がある。

 私の所感では、就職から定年退職まで厚生年金に加入された方で、65歳からの年金額はおおよそ150万~200万円である。年金だけで老後を暮していくにはとても十分といえない額だ。繰り返しになるが、一流企業で年収800万円を稼ぐBさんですら65歳からの年金額は月20万円に達しない――Bさんは40歳で気付いて行動を起こした。あなたはどうだろうか? 少子高齢化が進むこれからの時代、早く気付いて老後の準備を始めた人だけが充実した老後を送ることができるはずだ。
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