産経新聞 8月28日(日)13時30分配信

 年金積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が発表した平成27年度の運用実績が5兆3098億円の赤字となった。赤字は5年ぶり。26年10月から株式の運用割合を増やしており、年初来の株安や円高が響いた。運用資産額が130兆円を超えるGPIFの動向は金融市場にも影響を与える。GPIFによる運用や年金制度はどうあるべきか、コロンビア大の伊藤隆敏教授と日本総合研究所の西沢和彦主席研究員に聞いた。(田村龍彦、万福博之)

■「長期視点で稼げる運用を」「国債偏重では年金給付維持できず」伊藤隆敏コロンビア大教授

 --GPIFが運用割合を大幅に見直した結果、平成27年度の運用実績は5.3兆円の損失となった

 「それほど心配することはないと思う。昨年度は中国経済の減速や原油価格の下落で世界全体の株が下がった。その影響を受けて運用実績も赤字になったが、国債の運用割合を67%から60%に変えた25年度は約10兆円、国債をさらに35%に下げて株式の割合を約2倍の50%に上げた26年度は約15兆円の黒字だ。この3年間でも、株式の割合を上げることによって、アベノミクスの恩恵を受けている」

 --運用割合の見直しに対する評価は

 「目的は毎年利益を出すことではなく、10年間でならした際のリターン(投資で得られる利益)とボラティリティ(価格変動リスク)を最適な組み合わせにすることだ。従来の国債比率60%は明らかに高すぎた。長期金利が低下して国債の金利収入が減少し、将来、金利が上昇する局面では巨額の評価損を招くリスクが高いからだ。国債の比率を35%に下げたことは、日本的な感覚だと『思い切った改革』と思われるが、諸外国の公的年金の運用と比べるとまだ債券比率が多い。思い切りが足りないとも言えるかもしれない」

 --リスクの高い株式の運用を増やした結果、赤字が出たことに不安を感じる国民も少なくない

 「保険料だけでは年金給付を賄い切れず、GPIFから毎年約5兆円を年金会計に上納しているのが現実だ。GPIFの運用資産約130兆円を、現金を持つのと変わらない低金利の国債ですべて運用すると、単純計算で25~26年しか持たない。その先は、年金給付がどんどん減っていくことが目に見えている。GPIFが長期的視点に立ち、資産運用でどれだけのリターンを稼ぐかが、勤労世代や将来世代の給付水準を維持する鍵を握っている」

 --世界経済が減速する中、運用により損失がさらに拡大する懸念は

 「10年単位でみて株価が下がり続ける可能性は非常に少ないし、長期的には債券より株式の方がリターンが高い。日本の株価が上がらないと信じている人には危険な運用割合にみえるだろうが、それなら外国株式の割合を高める選択肢もあり得るのではないか」

 --国民の不安を解消するには

 「国会で継続審議になっているGPIFのガバナンス改革法案を臨時国会で通すことが急務だ。業務に関する意思決定の権限や責任が理事長1人に集中しているが、合議制の経営委員会を設け、幅広い知識と経験を持った人が議論に加わり、運用方針に対する監視機能を高めれば、国民の納得にもつながる。政治的なプレッシャーに対して長期的な投資の原則を守るためにも、ガバナンスが非常に重要になる」

 〈いとう・たかとし〉昭和25年、北海道生まれ。65歳。一橋大経済学部卒。ハーバード大博士。国際通貨基金調査局上級審議役、東大公共政策大学院院長などを経て昨年1月から現職。専門はマクロ経済学、国際金融。

■「損失を将来世代につけ回し」「年金制度全体で議論を」西沢和彦日本総合研究所主席研究員

  --年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が昨年度の運用で5.3兆円の損失を出した

 「被保険者や国民への心理的な影響を重く受け止めるべきだ。政府が『年金財政にただちに影響することはない』というのは事実だが、今の年金制度は(支給額を抑制する)『マクロ経済スライド』の適用長期化を通じて(損失が)将来世代につけ回しされる仕組みになっている。本来なら今の世代の意思決定で生じた損失は今の世代が穴埋めすべきだ」

 --GPIFは平成26年10月に国債中心の運用を見直し、国内外株式での運用を計50%に倍増した。その評価は

 「やるべきではなかった。政治が考えるべきことは年金財政の持続可能性だ。積立金の運用利回りを追い求めるより、マクロ経済スライドをきちんと機能させることや、『最低保障年金』としての基礎年金のあり方などの問題に向き合うことだ」

 --超低金利で国内債券中心の運用は収益を上げにくいとの意見がある

 「投資理論からいえば、その結論もありえる。だが、年金積立金は年金システムの一部であり、全体で考えるべきだ。リスク運用する際の備えもない。(GPIFは)年金の1階部分に相当する基礎年金と2階部分にあたる厚生年金の両方のお金を含めて運用しているが、国民は基礎年金に最低保障年金の期待を抱いている。(給付が)運用成績に連動するのはおかしい」

 --海外の公的年金も一定の割合で株式を運用しているのではないか

 「カナダやスウェーデンは1階部分を運用していない。カナダの場合、損失が出ればすぐに保険料率や給付を変えて補填(ほてん)する仕組みがある。最低保障年金の額も決まっており、二重のセーフティーネットがある。米国は全額を非市場性の国債に投資している」

 --世界最大の機関投資家のGPIFは「池のクジラ」にも例えられる

 「政府の一員が市場で大きなプレーヤーとなることが、わが国の成長に好ましいのかを議論しなくてはならない。(GPIFの株式保有比率が高まれば)政府による民間企業への介入が起こりかねないし、(株主が経営に関与しなければ)野放図な経営を助長しかねない。どっちに転んでも問題だ」

 --今後どう運用すべきか

 「市場への影響を考えると株式の比率を下げるのは難しい。『インデックス運用』に特化し、市場の平均的な収益率を追っていくしかない。損失が発生した場合、早急に処理する仕組みも導入する必要がある。(GPIFのガバナンス改革は)政治の側に『介入しない』という倫理がなければ機能しない。経営委員会のメンバーには保険料を払っている人の代表など、年金制度の当事者がもっと入るべきだ」
スポンサーサイト

 ←応援クリックお願いします!


今すぐチェック!
↓↓↓
2016.09.03 Sat l 年金 l top ▲