10月22日1時35分配信 産経新聞

 平成22年度予算の概算要求は、空前の「95兆円」まで膨張した。これほど巨額の予算が積み上げられたのはなぜか。そんなに税金を使って「日本の財布」は維持できるのか。政治主導を掲げる鳩山政権初の予算編成で、危機に立たされた国家予算の現場を報告する。

 15日の概算要求締め切りを目前に控えた東京・霞が関。農林水産省3階の第1特別会議室では、副大臣の山田正彦の怒号が部屋中に響きわたっていた。

 「だめだ、だめだ! 局長、こんな予算は絶対に認められない」

 事務方が出した概算要求原案に細かく注文をつける山田ら政務三役。官僚も顔色を変えて食い下がる。

 「副大臣、われわれ役人にとって予算は命です」

 同じころ、厚生労働省では異例の幹部待機が続いていた。「待っているしかないんですよ」。官僚が申し入れていた「大臣へのご説明」に対し、厚労相の長妻昭がなしのつぶてを決め込んでいたからだ。

 鳩山政権初の予算編成では、政と官の間に異様な緊張感が広がった。それでも歳出見直しは不十分に終わり、概算要求は典型的なバラマキ型となった。

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 「膿(うみ)を出す」。そう言って厚労省入りした長妻が出した「予算作成の指示」には、「施設整備は必要不可欠なものに限定」「事業委託、物品調達は2割削減」などの文字が並んだ。年金問題で厚労省と戦った長妻にとって当然の帰結だったが、それでも予算の膨張は避けられなかった。

 政権発足前から、厚労省内では「民主党のマニフェスト(政権公約)をすべて盛り込めば、概算要求は5兆円くらい増えるだろう」(幹部)といわれてきた。看板の子ども手当の財源だけでも初年度に2兆円を超える。

 社会保障重視の鳩山政権にとって、予算編成の最大の問題は厚労省予算が増えた分をどこで削るかだったが、厚労省は「ほかの省庁で切るんだろう」と高をくくっていた。公約の新規政策をそのまま盛り込むなら、従来の予算を要求段階から相当絞り込まなければならない。そんな当たり前の考え方を具体化する力量も今の政治にはなかった。

 経済産業省の政務三役は電卓片手に作業。スタッフ不足は明らかで、そこが官僚の“狙い目”となった。経産省幹部が振り返る。

 「まじめに時間をかけて事業を説明するうちに政務三役も判断が甘くなった」

 政務三役も、すべての政策に目は届かない。削減の標的となった公共事業について、農水省では「15%カットの枠内で局ごとにやってほしい」との指示が出た。事業選別は官僚に委ねられた格好だ。

 山田は「どの部分が必要で、どれが要らないかは、ここにいても分からないことが多かった。時間も限られていたし…」と歯切れが悪い。結局、各省庁は新規施策を列挙する一方、既存予算の要求は合計1兆3千億円しか削れなかった。

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 「個々の施策の理想はあっても優先順位の基準がないから、どんな予算にしたいのかがさっぱり分からない」。経済官庁の幹部は、鳩山政権が財政運営の全体像や具体的な指針を示せていないことが要求の膨張に拍車をかけたと酷評する。

 6月の骨太の方針策定から始まる例年の予算編成との違いは明白で、政府が9月29日に決めた予算の基本方針もA4判のペーパー1枚。財政規律維持などが記されたが具体性に欠ける。

 問題は、今後の査定で歳出膨張に歯止めをかけられるのかどうか。だが、聞こえのいい「政治主導」という名の下に、ずらりと並んだ要求項目を切り込むのは容易ではない。

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 19日夜。通りに響き渡るほどの高笑いが時折漏れ、宴は何時間も続いた。都内にある財務相の藤井裕久の自宅は、さながら概算要求の査定に向けた財務省の決起集会のようだった。副大臣の野田佳彦ら政務三役や事務次官の丹呉泰健…。勢ぞろいした財務省幹部は車座で焼酎や日本酒を酌み交わした。「大臣と飲むのは初めてだったが、強かったね」。出席者の1人は楽しそうに振り返った。

 だが、この夜のムードとは裏腹に、査定作業の先行きはあまりにも厳しい。

 宴の数時間前、首相官邸に駆け込んだ厚生労働相の長妻昭は、首相の鳩山由紀夫と向き合っていた。昨年度いっぱいで廃止された生活保護世帯への「母子加算」の復活を掛け合うためだ。

 「全力で取り組んでほしい」。鳩山から12月復活を確認すると、長妻はほっとした表情を浮かべた。厚労省は平成22年度概算要求で、母子加算について金額を明示しない「事項要求」としていた。それが事実上、認められたからだ。

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 概算要求の中に、重点政策の項目だけを示す「事項要求」は、見かけ上、概算要求の総額を少なくする“隠れ要求”のような存在だ。今回は厚労省のほか、エコポイント制度の継続を要求した環境省など各省庁が事項要求を乱発。事項要求を含めると、95兆円の概算要求は一気に97兆円規模まで膨らむ。

 だが、事項要求を野放図に認めると、予算の絞り込みどころではなくなる。このため藤井は16日、「事項要求はほとんど認められない」とくぎを刺した。母子加算で鳩山が与えた“お墨付き”は、そんなタイミングでの政治判断だった。

 「賢明な財務相なら分かるはずです」

 総務相の原口一博も19日、事項要求絡みでこんな牽制(けんせい)球を放った。総務省の要求は、1兆円規模とされる地方交付税の増額。地方経済が疲弊する中、地方自治体が自由に使える交付税の増額は不可欠との理屈だが、長妻や原口に限らず、多くの閣僚が今後、藤井に事項要求実現の政治決断を迫ることは確実だ。

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 鳩山政権下で、査定の障害となる“政治の壁”は事項要求にとどまらない。

 「公共投資は抑制する方向だが、整備新幹線は1日も早く作りたいという声が多い」。14日、国会内で行われた「整備新幹線を推進する議員の会」。代表の元首相、羽田孜は声を張り上げた。集まったのは約70人の与党議員ら。鳩山も顧問として名を連ねる。

 国土交通省は概算要求で、公共事業費を21年度当初予算費14%減と大幅に減らした。削減の標的はダムや道路などだ。対照的に整備新幹線は、21年度予算と同額の706億円を要望した。新規着工分も凍結されず、年末までに検討することになった。

 国交相の前原誠司は「新幹線だけを甘くしたわけではない」と白紙での検討を強調するが、あらゆる公共事業が軒並み削減される中での新幹線の扱いは、自民党政権で恒例だった予算の“聖域化”も想起させる。

 21年度補正予算の見直しでは、一層の削減を求める行政刷新担当相の仙谷由人に対し“政治判断”でゼロ回答を連発した省庁もあった。今後も同様の動きが広がる懸念は消えない。

 「役人に予算を一律で2割カットしろと言えば、鉛筆をなめながら削減案を作り上げるかもしれない。でも、それでは政治主導でも何でもない。結果的に官僚より削れなくても、政治的に削る努力をしなければいけないのではないか」

 重要閣僚の一人はこう語るが、政治主導の予算編成が機能しないようなら、国の借金である国債を巨額発行するしか道はない。

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 旧大蔵省出身で財政再建論者の藤井は、22年度予算の国債発行について「(21年度補正予算後の)44兆円より減らさないと市場の信認に応えることにならない」と増発に慎重だ。今月上旬、国債増発が不可避とみる閣僚を「今はそんな話をする段階じゃない」とたしなめたこともあった。

 だが、不況のあおりで21年度税収は当初見通しの46兆円より大幅に減り、40兆円を割り込む可能性も出ている。22年度も税収の劇的な回復は見込めない。

 鳩山政権は消費税の増税も封印しており、財政健全化の道筋は一向にみえない。そんな中でマニフェスト(政権公約)に縛られたバラマキ型の財政運営を続ければ、子や孫の世代が支払う「借金の子ども手当」を乱発したとのそしりを受けることになる。(敬称略)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091022-00000523-san-bus_all
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